「文章は一応読めていると思うんです」

保護者の方から、こんな言葉を聞くことがあります。音読もできる。設問にも何かしら答えている。それなのに、点数は安定せず、記述問題になると急に手が止まる。国語が苦手な子によく見られる姿です。

しかも、このタイプの子は、極端にできないわけでもない。平均前後は取れているし、大きく崩れることも少ない。だからこそ、「決定的な弱点があるようには見えない」。

この「なんとなく読めている状態」が、実は一番見過ごされやすいところでもあります。

①語彙不足だけでは説明できない

こうした子について、「語彙が足りないからでは」と言われることもあります。確かに、知らない言葉が多ければ、文章は正確に読めません。ただ、実際に子どもたちの読解の様子を見ていると、問題は語彙の「量」だけではないと感じています。同じ言葉を知っていても、理解の深さには大きな差があるからです。

ここで鍵になるのが、「言葉の解像度」という考え方です。

辞書に書いてある意味を知っていることと、文章の中でその言葉を正確に扱えることは別です。読解では、その言葉が「この文脈で、どんな意味合いをもっているのか」を捉える必要があります。

②「雰囲気をつかめ」は間違いなのか?

ただし、ここで誤解してほしくないことがあります。

私は授業の中で、「まずは言葉の雰囲気やニュアンスをつかもう」とよく伝えています。一見すると、「なんとなくはダメだ」という話と矛盾しているように聞こえるかもしれません。しかし、否定しているのは「雰囲気そのもの」ではありません。問題なのは、雰囲気で止まってしまう読み方です。

③できる子ほど、最初は感覚的に読んでいる

文章を読むとき、最初からすべての言葉を厳密に定義しながら読むことは、現実的ではありません。むしろ、成績が比較的安定している子ほど、最初は全体の流れや言葉の方向性を感覚的につかみます。これは読解の入口として、とても重要な段階です。

ところが、伸び悩む子は、その「なんとなく」を確かめないまま先に進んでしまいます。「だいたいこんな意味だろう」と思ったところで思考を止め、言葉を精密化しません。その結果、設問で聞かれた瞬間に、「何を書けばいいのかわからない」状態に陥ります。

この読みのズレが最も表れやすいのが、抽象的な言葉です。

④抽象語で差がつく

たとえば「目的」という言葉を考えてみましょう。
文章の中では、「なぜそれをするのか」という意味で使われることもあれば、「最終的に目指している到達点」を指していることもあります。

ところが、解像度の低い読みでは、こうした違いが意識されず、「目的=理由」とまとめて処理されてしまいます。
すると、筆者が何を伝えているのかを取り違えてしまいます。
そのため、設問で何を答えるべきかが分からなくなってしまうのです。

こうした読みのズレは、「行間が読めていない」と言われることもあります。

ここで重要なのは、「行間を読む力」は直感ではないという点です。
行間は、言葉を雑に処理しても見えてきません。一つ一つの語を文脈に合わせて理解し、その積み重ねの先に、はじめて見えてきます。

言葉の解像度が低いままだと、差がつく設問でつまづいてしまいます。
逆に言えば、解像度の高い子は、違う思考の仕方をしています。

⑤解像度の高い子が無意識に行っていること

言葉の解像度が高い子は、抽象的な語を文脈に応じて具体化できます。そして、その具体的な内容を、もう一度まとめ直すことができます。つまり、「抽象→具体→抽象」という思考の往復が自然にできているのです。

この力があると、文章の構造が見えやすくなり、「どこを聞かれているのか」「何を答えるべきか」を素早く判断できます。

この力は国語だけのものではありません。算数の文章題や、社会や理科の資料読解でも、言葉を正確に扱える子ほど理解が早く、ミスも少なくなります。内容を正確につかめているため、自分の言葉で整理して説明することもできます。

⑥家庭でできる、ほんの一工夫

家庭でできることは、普段の会話の中で、ちょっとだけ言葉に目を向ける習慣を取り入れてみることがおすすめです。

たとえば、子どもが話したことに対して、

  • 「それって、もう少し具体的に言うとどういうことかな?」
  • 「今の言い方を、別の言い方にするとどうなる?」

と、軽く問いかけてみてください。雰囲気や感覚を否定する必要はありません。

少しだけ深く考えさせることが、言葉の理解を丁寧にし、読解力の土台を育てるきっかけになります。

⑦まとめ

成績が大きく崩れない子ほど、「できているつもり」で止まりやすいものです。

しかし、その「つもり」を一段深く掘り下げられるかどうかで、入試での安定感は大きく変わります。

語彙の量を増やすことも大切です。ただ、それ以上に重要なのは、言葉を雑に扱わないことです。「わかったつもり」で止まらず、自分の知っている言葉で確かめ直す習慣が、読解力を支えます。