生徒さんが受けた模試や塾のテストを見ていると、長文問題の解答欄がほぼ白紙のまま残っている答案に出会うことがあります。理由を本人に尋ねてみると、返ってくるのは「時間が足りなかった」という答え。これは決して珍しいことではありません。中学入試では、多いと1万字以上の長さがある文章を限られた時間で読んで、設問に答えることが求められるからです。

問題文を丁寧に読む力そのものは必要ですし、むしろ、それは試験においてとても大切な力です。ただし、最初から最後まで細かいところにこだわりすぎて読むと、時間が足りずに設問にたどりつかないということも起きてしまいます。

大切なのは、読み方と解き方にメリハリをつけること。まずは全体の文章構造や話の流れをつかむ。そのあと、設問に関わっているところはしっかり読む。この順番で取り組むことが重要です。

本稿では入試問題を制限時間内に解くためのヒントを3つ述べていきます。

①時間配分を決める

限られた時間の中で合格点を取るには、「最初から順番に解く」だけでは不十分です。最初に問題文全体の構成をざっと見て、どこにどれだけの時間をかけるのかを自分の中で予め決めておくことが大切になります。特に国語の入試では、漢字や慣用句などの知識問題と長文読解問題が分かれていることが多く、知識問題は短時間で処理し、残りを読解に回すのが基本です。

たとえば50分の試験時間があるとしたら、知識系の問題(漢字・慣用句など)を5分で解き、残りを読解問題にあてる。読解が2題あるなら、説明文25分、物語文20分など時間を決めておく。もちろん逆でもかまいません。自分に合った順番で進めることもポイントです。そして、問題文は、長さにもよりますが、10分以内(理想は7~8分)で読み、残りはすべて解く時間にあてる。

その時に大切なのが、「時間が来たら切りかえる」こと。途中でもいったん区切りをつけて次に進む勇気が、結果として全体の得点を底上げします。解けそうで解けない問題や苦手な問題を粘りすぎて後半の設問が白紙、という状態は避けなければなりません。

②大きくつかんで、細かく解く

読解問題では、ただ字面を読むのではなく、自らの頭を使って思考しながら読み進めることが重要です。論説文であれば、筆者の主張や文章の流れを意識しながら、物語文であれば、登場人物の関係や感情の動き、場面転換等に注目しながら読みましょう。このとき、はじめからすべてを細かく読み取ろうとしすぎないことが大事です。

そもそも最初から詳細を理解するのは難しいので、まずは全体を通して大まかな内容や構成をつかみ、そのうえで設問に取り組み、必要な箇所をもう一度丁寧に読み直す。こうした姿勢が、時間内に精度の高い解答をつくるための鍵になります。

特に記述問題では、「設問で何が問われているのか」を正確にとらえることが不可欠です。読みながら、設問をチラッと見て何が聞かれているのかを意識しておくと、後で行う解答の作成がスムーズになります。そして問題を解くときも、解ける問題から着実に解き、難しい問題に固執しないように意識しましょう。満点は必要ありません。合格点に届くよう、得点できる問題を落とさないようにすることが何よりも重要です。時間の使い方を含めた戦略的な読解を心がけましょう。

③制限時間を意識する

普段から時間を意識せずに学習していると、入試本番で力を発揮するのは難しくなります。だからこそ、「制限時間を意識した学習」を日々の習慣にしておくことが重要です。たとえば、いつも20分で解いている問題を18分で取り組んでみるなど、日常の学習に小さな「時間の壁」をつくっておくのです。こうした小さな積み重ねが、集中力や判断力を鍛えてくれます。

国語は、与えられた文章を読んで考え、答えを組み立てるという性質上、じっくり時間がかかるものではありますし、一文を精読する読み方も必要です。しかし、それだけでは昨今の入試には対応しきれません。制限時間を意識し、最初からトップギアで読み始め、時間を区切って問題に取り組む。そして、決めた時間が来たら迷わず次へ進む。このような「時間とともに動く」感覚を、普段の学習の中で養っていくことが大切です。

実際、トップ中学に合格していく子たちの多くは、この時間意識のある学習スタイルを早くから身につけています。これは中学入試に限った話ではなく、高校入試や大学入試にも共通する力です。

日々の学習で時間を測る習慣がある子は、問題の取捨選択や見直しの時間配分にも自然と意識が向くようになります。逆に、普段ダラダラと読んでしまう子は、試験本番になるとペース配分ができず、焦って実力を発揮できないまま終わってしまうこともあります。解けていた可能性がある問題なのに、時間の使い方で損をしてしまう。それほどもったいないことはありません。

今日からできることを一つずつ、積み重ねていきましょう。